預貸率とは?高いメリットやデメリットを事例に基づいて解説。また、預証率との違いも説明します。

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預貸率とは?高いメリットやデメリットを事例に基づいて解説。また、預証率との違いも説明します。

預貸率(よたいりつ)とは、銀行が預金に対して貸し付ける割合を示し、金融機関のリスク管理や経済成長への影響があります。高い・低いことによるメリットとデメリットが存在し、日本では預貸率が低い傾向が見られる一方、ギリシャの金融危機では預貸率の急上昇が問題となりました。

本記事では国内外の事例を見ながら預貸率について解説していきます。また、預証率(よしょうりつ)との違いについてもまとめました。

預貸率(よたいりつ)とは?

預貸率(または貸出率)は、金融機関が預金に対して貸し付けることができる金額の割合を指す重要な指標です。具体的には、銀行が預かった預金のうち、どれだけを貸し付けることができるかの割合を示します。

預貸率の計算

預貸率は以下の式で計算されます。

預貸率=総預金額/総貸出金額×100

預貸率の意義

預貸率は、金融機関の健全性やリスク管理の観点から重要とされています。預貸率が高すぎると、預金者全員が同時に預金を引き出すような事態(バンクラン)に対処できなくなる恐れがあります。一方で、低すぎると、金融機関が収益を上げるチャンスを逃してしまうことになる可能性があります。

金融規制との関連

多くの国では、預貸率に対して一定の規制があります。これは、金融システム全体の安定を保つための重要な措置とされており、金融機関が適切なバランスを取るように促しています。

預貸率、英語でなんと言う?

預貸率(預金に対する貸出しの比率)は英語で “Loan-to-Deposit Ratio” や “LTD Ratio” と呼ばれます。この比率は、銀行が預かった預金に対してどれだけの貸し付けを行っているかを示す重要な指標で

預貸率は、金融機関の健全性を評価するための重要な指標です。銀行が預金に対してどれだけ貸し付けを行っているかを示し、適切なリスク管理と収益性のバランスを取るために用いられます。規制当局もこの率を監視し、金融システムの安定性を保つ役割を果たしています。

預貸率が高いことのメリットとデメリット

預貸率が高いことのメリット

  1. 収益性の向上: 貸し付けによる利息収入は、銀行の主要な収益源の一つです。預貸率が高いということは、預金を積極的に貸し付けに回しているため、利息収益が増加する可能性があります。
  2. 経済成長の促進: 銀行の貸し付けが増えることで、企業の設備投資や個人の消費などが活発になり、経済成長を促進する役割を果たすことが期待されます。

預貸率が高いことのデメリット

  1. リスクの増加: 預貸率が高い場合、銀行は預金の大部分を貸し付けに回していることになります。そのため、不良債権が増えた際のリスクが高まる可能性があります。
  2. 流動性の問題: 預貸率が高すぎると、銀行が保有する現金や短期の流動資産が少なくなる場合があるため、急な資金需要に対応する能力が低下する恐れがあります。
  3. 信用審査の緩和: 預貸率を高めるために、信用審査を緩和することで、リスクの高い貸し付けが増加する可能性があります。この結果、将来的に不良債権の増加につながる恐れがあります。

まとめ

預貸率が高いことは、銀行の収益性の向上や経済成長の促進に寄与する一方で、リスク管理や流動性確保の面で慎重な運用が求められます。銀行の経営戦略や市場環境に応じて、適切な預貸率を維持することが重要となるでしょう。

日本の預貸率が低い理由と原因。低い事による弊害

日本の預貸率が低いとされる背景と、それが健全かどうかについて考察します。

日本の預貸率の状況。低い原因は?

日本では、長らくデフレ経済が続いており、企業や個人の借り入れ需要が低いとされています。また、銀行側も、貸し付ける先のリスクを避ける傾向にあるため、預貸率は他の先進国に比べて低い傾向にあります。

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低い預貸率の意義

預貸率が低いことは、必ずしも健全でないというわけではありません。預貸率が低いということは、銀行が預金に対して貸し付けを控えている状態を示すため、以下のような側面があります。

  • リスク管理
    預貸率が低いと、銀行は預金に対して十分な現金を保有している状態であるため、突発的な預金引き出しに対しても対応できるとされます。
  • 経済成長への影響
    一方で、貸し付けが控えられることで、企業の設備投資や新規事業展開などの資金調達が抑制される可能性があり、経済成長のブレーキとなることも考えられます。

日本の預貸率が低いことは、金融機関のリスク管理の観点からは健全であると言えるでしょう。しかし、経済全体の成長促進や活性化の観点からは、貸し付けが控えられることは望ましくない側面もあります。

このため、預貸率の適切な水準は、経済状況、金利政策、銀行のリスク管理方針など多岐にわたる要因を総合的に考慮して判断する必要があります。政策当局と金融機関が連携し、バランスの取れた預貸率を維持する方針が求められるでしょう。

預貸率の一般的な水準

預貸率の一般的な水準は、国や経済状況、金融政策、銀行のリスク管理方針などにより大きく変動するため、一概に定めることは困難です。以下は、預貸率の水準に影響を及ぼす主要な要素と、一般的な範囲についての説明です。

影響要素

  1. 経済状況: 経済が活況の場合、企業や個人の借り入れ需要が高まり、預貸率が上昇することが多いです。
  2. 金利政策: 金利が低いと、貸し付けの利益が減少するため、銀行が貸し付けを控えることがある。逆に金利が高いと、貸し付けが増える傾向にあります。
  3. 銀行のリスク管理: 銀行のリスク管理方針や規制当局の指導により、預貸率に上限が設けられることがある。

一般的な範囲

預貸率の一般的な範囲は、先進国では通常60%から90%程度であることが多いです。途上国では、金融システムの成熟度や規制の有無などによって、この範囲から外れることもあります。

  • 60%未満: 貸し付けが控えられている状況。リスクを極端に避ける方針か、借り手の需要が極端に低い場合に見られる。
  • 60%~80%: 比較的健全な範囲とされることが多く、リスク管理と貸し付けのバランスが取られている。
  • 80%以上: 貸し付けが活発で、経済成長を支えている状況。しかし、リスクが高まる可能性もあるため、注意が必要。

参考:日本銀行 貸出貸出・預金動向 https://www.boj.or.jp/statistics/dl/depo/kashi/index.htm

この範囲はあくまで一般的なもので、特定の国や時期における適切な預貸率は、その国の経済状況や金融政策に応じて異なります。当局や金融機関は、現地の状況に応じた適切な預貸率の水準を維持する努力が求められるでしょう。

預貸率の低い銀行はお金を運用に回す

預貸率の低い銀行は、預金を他の方法で運用することが一般的です。預貸率が低い状態では、銀行が預かった預金の一部が貸し付けに回されず、他の運用先に投資されることが多いです。以下は、その主な運用先の例です。

1. 政府債券の購入

安全な運用先とされる国債や地方債などの購入に回されることがあります。リスクが低い一方で、利回りも比較的低いことが多いです。

2. 他の金融商品への投資

企業債や株式、投資信託などの金融商品への投資も行われることがあります。これらの商品にはリスクが伴うことが多いですが、利回りが高い場合もあります。

3. 中央銀行への預託

中央銀行に一時的に預けることも一般的な運用方法です。中央銀行に預けることで、一定の利息が得られます。

4. 他の金融機関への貸付

他の金融機関への短期間の貸付(通常は超短期のインターバンク市場を利用)も行われます。これにより、一時的な資金の余剰を有効に活用することができます。

預貸率の低い銀行は、預金の一部を貸し付けに回さないため、その分を他の運用先に投資します。運用の方針や対象は、銀行のリスク管理、利益追求の方針、市場状況などによって異なります。この運用によって銀行は、資金を有効に活用し、収益を上げることを目指します。

預証率とは?

預証率(よしょうりつ)は、銀行が預かった預金残高(譲渡性預金を含む)に対する有価証券残高の比率を指します。言い換えれば、預金がどれだけ有価証券(例:国債、企業債、株式など)に投資・運用されているかの割合を示す指標です。

預証率の意義

預証率は、銀行の資金運用の方向性やリスク管理の観点から重要な経営指標となります。

  • 資金運用の方向性: 有価証券への投資割合が高い場合、銀行は証券市場への投資に重点を置いていると言えます。逆に、低い場合は貸し付けなど他の運用に重点を置いている可能性があります。
  • リスク管理: 有価証券の種類や質によって、銀行のリスクプロファイルが変化します。例えば、国債などの安全な証券への投資が多い場合、リスクが低いとされることが多いです。

預証率と預貸率

預証率は、預貸率(預金に対する貸し付けの比率)とともに、銀行の資金ポジションを示す重要な指標です。預貸率が銀行の貸し付けの姿勢を示すのに対し、預証率は有価証券への投資の姿勢を示します。これらの指標を組み合わせて分析することで、銀行の資金運用の全体像を把握することが可能です。

預貸率が低く、預証率が高い状況は、市場における一般的な銀行の機能としては正常ではない?

預貸率が低い状況

預貸率が低いということは、銀行が預かった預金に対して、貸し付けをあまり行っていない状態を示します。銀行の一般的な機能として、預金者からの預金を受けて、それを企業や個人への貸し付けに回す役割があります。したがって、この役割が果たされていない場合、一般的な銀行の機能としては異常な状況と言えるでしょう。

預証率が高い状況

預証率が高いということは、預かった預金が主に有価証券への投資に回されている状態を示します。銀行が投資活動を行うこと自体は一般的な業務の一部ですが、この比率が極端に高い場合、銀行の主要な機能である貸し付けが後回しにされている可能性があります。

総合考察

預貸率が低く、預証率が高い状況は、銀行が預金を受けて、それを主に有価証券へ投資しているという状態を示します。この状況が、市場の経済状況や銀行の経営戦略に応じて一時的に発生することはあるかもしれません。

しかし、この状況が長期にわたって続くと、銀行の基本的な機能である貸し付けが十分に果たされていないと解釈される可能性があります。特に、経済成長を促進するためには、銀行による貸し付けが重要な役割を果たすため、この状況は市場全体の健全な機能にとって望ましくないと言えるでしょう。

預貸率が低いことで中央銀行や国からペナルティを与えられることはあるか

預貸率が低いこと自体が直接的に国からペナルティを受ける原因となることは一般的には少ないです。しかし、以下のような状況や観点から、政府や中央銀行が銀行に対して何らかの措置を取ることがあるかもしれません。

1. 経済政策との関連

預貸率が極端に低い状態が続くと、経済全体への貸し付けが抑制されるため、経済成長の阻害となる可能性があります。このような場合、中央銀行や政府は、銀行に対して貸し付けを促進するよう働きかけることがあるでしょう。具体的なペナルティではないものの、政策金利の調整や規制緩和などを通じて、銀行の貸し付け態度に影響を及ぼすことがあります。

2. リスク管理の観点

預貸率が低いことは、銀行がリスクを過剰に回避している可能性を示すこともあるため、規制当局は銀行のリスク管理方針を評価する際にこれを考慮することがあります。適切なリスク管理が行われていないと判断された場合、監督当局から改善指導などがなされることがあるかもしれません。

3. 金融健全性の確保

一方で、預貸率が低い状態は、銀行が預金に対して十分な現金を保有しているとも解釈できるため、金融健全性の観点からは必ずしも否定的に評価されるものではありません。

預貸率が低いこと自体がペナルティの対象となることは少ないですが、経済成長の促進や銀行の適切なリスク管理などの観点から、政府や中央銀行が何らかの措置を取ることがあるでしょう。具体的な対応は、その国の法律、規制、経済状況などに基づくため、一概には言えません。

国内外における預貸率に関する具体的な事案

預貸率に関連する具体的な事件や事例は、直接的なドラマチックな出来事というよりも、経済政策や銀行の運営方針などと密接に関連しています。以下は、国内外での預貸率に関連する興味深い事例です。

1. ギリシャの金融危機

2000年代後半から2010年代初頭にかけてのギリシャの金融危機では、銀行の貸し付けが急激に拡大し、預貸率が極端に高まりました。その結果、多くの不良債権が発生し、銀行システム全体の健全性が揺らぎました。この事例は、預貸率の管理が金融システムの安定にどれほど重要かを示しています。

ギリシャの金融危機は、2000年代後半から2010年代初頭にかけて発生しました。預貸率の高まりとその背後にある要因、審査や自己資本比率についての問題について解説します。

預貸率の高まり

ギリシャの金融危機の背後には、いくつかの要素が絡んでおり、預貸率の高まりもその一部でした。

  1. 経済の拡大: ギリシャはユーロ圏に加盟した後、低金利の恩恵を受け、経済が急速に拡大しました。これに伴い、企業や個人の借り入れ需要が増加しました。
  2. 銀行の積極的な貸し付け: 低金利と経済成長の期待から、銀行は積極的に貸し付けを拡大しました。信用リスクの評価が甘くなる傾向もありました。

審査や自己資本比率の問題

  1. 審査の甘さ: 貸し付けが拡大する中で、一部の銀行では信用審査が緩和されたとされています。これにより、リスクの高い貸し付けが増えました。
  2. 自己資本比率の問題: 銀行の自己資本比率は、表面上は規制の基準を満たしている場合が多かったものの、リスクの適切な管理が行われていなかったとされています。資本の質やリスク評価の基準が問題視されました。
  3. 国債の問題: ギリシャ国債は、銀行のバランスシート上で大きなウェイトを占めており、国債の価値が急落すると銀行の健全性が揺らぎました。

結果と影響

これらの要素が組み合わさり、ギリシャの経済が悪化した際に、多くの不良債権が発生しました。銀行の健全性が揺らぎ、国際的な支援が必要となるなどの深刻な影響が生じました。

2. 日本の失われた20年

日本では、バブル経済崩壊後の1990年代から2000年代にかけて、企業や個人の借り入れ意欲の低下、銀行のリスク回避などから預貸率が低下しました。この期間は、経済成長が停滞し、投資の機会損失が発生したとされています。

3. 中国の銀行システム

中国では、政府が経済成長を促進するために、銀行に対して積極的な貸し付けを推進している場合があります。このため、一部の銀行では預貸率が非常に高く、将来的な不良債権のリスクが指摘されることもあります。

4. Basel IIIによる規制強化

国際的な銀行規制であるBasel IIIでは、銀行のリスク管理が強化されており、預貸率を含む様々な指標が監視されます。これにより、各国の銀行は健全な運営を強く求められており、預貸率の適切な管理が重要視されています。

預貸率に関連する具体的な事件や事例は、経済の動向や金融政策、規制などと深く結びついています。これらの事例は、預貸率が金融機関の健全性や経済成長にどのように影響するかを理解する上で貴重な参考になるでしょう。

Basel IIIとは?銀行の資本、リスク管理、監督基準のフレームワーク

Basel III(バーゼルIII)は、国際的な銀行規制の一環として、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)によって策定された銀行の資本、リスク管理、監督基準のフレームワークです。以下、Basel IIIの主要な側面とその背景について詳しく解説します。

バーゼルⅢ公式ページ

1. 目的

Basel IIIの主要な目的は、金融システムの安定を高め、2007-2008年のグローバル金融危機のような危機を未然に防ぐことです。具体的には、銀行が取り扱うリスクに対して十分な資本を保有し、透明性を高めることで、銀行の健全な運営を促進します。

2. 主要な要件

Basel IIIは以下の三つの主要な柱から構成されます。

  • 柱1: 最低資本要件: クレジットリスク、市場リスク、操作リスクに対する資本の最低要件を定めます。資本の質も強化され、コア・ティア1資本比率などの新たな指標が導入されました。
  • 柱2: 監督プロセス: 銀行自身のリスク管理と監督当局による監督プロセスを強化します。銀行は自身のリスクプロファイルに基づいて資本計画を策定する必要があります。
  • 柱3: 市場規律: 透明性の向上を目指し、銀行はリスクや資本構造に関する詳細な情報を公開する必要があります。

3. 導入の背景

2007-2008年の金融危機は、銀行の資本不足とリスク管理の不備が深刻な影響を及ぼしたことから、これに対処するためにBasel IIIが策定されました。

4. 国際的な影響

Basel IIIは多くの国で採用されており、国際的な銀行業界に対する共通の基準となっています。ただし、各国での具体的な規制内容や導入時期は異なる場合があるため、国際的な調整も重要な課題となっています。

まとめ

Basel IIIは、銀行の健全な運営と金融システム全体の安定を促進するための国際的な規制フレームワークです。資本の質と量の強化、リスク管理の強化、透明性の向上などを通じて、銀行業界の信頼性を高めることを目指しています。

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